電子申請導入の先にある、行政と住民の「信頼の再設計」

神奈川県横須賀市が、児童手当および小児医療証の申請をマイナポータル経由の電子申請に対応させました。住民にとっては24時間の利便性が向上し、市側にとっては窓口業務の負荷軽減が期待される一歩です。この「デジタル化」という出来事を、私たちは単なる事務改善としてだけでなく、行政というサービスのあり方そのものを問い直す契機として捉える必要がありそうです。

何が起きたか

横須賀市は、2026年6月1日より、これまで窓口での対応が主であった児童手当および小児医療証の申請を、マイナンバーカードを用いた電子申請システムへと移行させました。これにより、住民は自宅のスマートフォンから24時間いつでも申請が可能となり、書類の記入や混雑した窓口への移動といった負担が大幅に軽減されることになります。

なぜこの話が大事なのか

この変化は、住民と行政の間にこれまで存在した「物理的な距離感」が解消されることを意味しています。手続きがオンライン化されることは、単に手間が減る以上の価値を住民に提供する可能性があります。例えば、子育てという多忙な渦中にいる保護者にとって、深夜の数分間で申請が完結することは、行政への心理的なアクセスしやすさを高めることにつながるはずです。

また、現場で働く職員にとっても、窓口での定型的な受付業務から、より専門性の高い相談業務や地域課題の解決といった「対人サービス」に時間を割けるようになる可能性を秘めています。ベンダーの皆さまにとっても、この仕組みが単なる「デジタル化」で終わらず、行政サービスの基盤としてどのように住民に寄り添えるかという視点は、今後のシステム設計における重要な判断基準となるでしょう。

今の社会のどこに歪みがあるか

一方で、デジタル化の影で「制度疲労」が隠れていないかも注視しなければなりません。電子申請が進んでも、裏側にある行政の手続きそのものが複雑で、依然として「申請者側が制度を理解しなければならない」という構造が変わらなければ、本質的な解決には至らないかもしれません。

また、行政DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める過程で、住民側のデジタル格差や、「デジタル化によって対面サービスが切り捨てられる」という不安感への配慮が十分になされているかも問われています。現場がシステムを回すことに精一杯になり、本来の目的である住民の幸福や安心を置き去りにしてしまうリスクは、どの自治体にも潜んでいるのではないでしょうか。

どう変わると幸せか

真のデジタル化とは、行政手続きが「見えなくなること」かもしれません。住民が「申請する」という意識を持つことすら減るような、行政側から最適な情報を適切なタイミングで提供できる関係性です。職員はシステムに振り回されるのではなく、ITを武器として活用し、システムが弾き出すデータをもとに「住民一人ひとりの困りごと」に先回りして対応できる専門職としての誇りを持てるようになるはずです。

地域としては、行政への信頼感が高まることで、福祉サービスや地域コミュニティへの参加意識もポジティブなものへと変化する可能性があります。行政が「申請を受理する場所」から「住民の人生に伴走するパートナー」へと進化すること。これが、このデジタル化の先に目指すべき未来像ではないでしょうか。

今できる一歩

公務員の皆さまは、今回のシステム導入を機に、窓口の行列が減った分だけ「住民とどのような深い対話ができるようになったか」を意識してみてはいかがでしょうか。地方議員の皆さまは、システム導入の進捗だけでなく、その先の「住民の声がどう吸い上げられているか」という視点で議場での議論を深めることができます。

ベンダーの皆さまも、使いやすいUI(ユーザーインターフェース)の開発と同時に、現場職員がより直感的に住民を支援できる仕組みづくりに知恵を貸してください。私たちの現場は、ツールを導入して終わりではありません。デジタルという道具を使って、目の前の誰を、どう楽に、そして幸せにできるか。その小さな問いを、明日からの業務の中に持ち帰っていただければ幸いです。

情報元: 児童手当・小児医療証の申請が電子でできるようになりました